公益財団法人 ひと・健康・未来研究財団 |
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平成25年度 放射線の健康影響に関するQ&A講演会活動報告 |
1.平成25年度連携実施機関 公益財団法人ひと・健康・未来研究財団、京都大学・放射線生物研究センター、日本放射線影響学会 2.事業参加者一覧(日本放射線影響学会福島原発事故対応グループ) 宇佐美徳子(高エネルギー加速器研究機構・講師) 柿沼志津子(放射線医学総合研究所・研究リーダー) 小松 賢志(京都大学・放射線生物研究センター・教授) 島田 義也(放射線医学総合研究所・プロジェクトリーダー) 鈴木 啓司(長崎大学・医歯薬学総合研究科・准教授) 高田 穣(京都大学・放射線生物研究センター・教授) 松田 尚樹(長崎大学・先導生命科学研究支援センター・教授) 松本 英樹(福井大学・高エネルギー医学研究センター・准教授) 松本 義久(東京工業大学・原子炉工学研究所・物質工学部門・准教授) 松本 智裕(京都大学・放射線生物研究センター・教授) 田内 広(茨城大学・理学部・理学科 生物科学コース・教授) 立花 章(茨城大学・理学部・理学科 生物科学コース・教授) 富田 悟(東京工業大学・放射線総合センター・助教) 平山 亮一(放射線医学総合研究所・研究員) 三谷 啓志(東京大学・大学院新領域創成科学研究科・教授) 渡邉 正己(京都大学・放射線生物研究センター・特任教授)-代表世話人 3.平成25年度-スポンサーシップ 公益財団法人 ひと・健康・未来研究財団、京都大学・放射線生物研究センター、社団法人国立大学協会、独立行政法人科学技術振興機構震災復興支援プラザ、日本コルマー株式会社 4.平成25年度の活動目標 私達は、平成24年度までの活動経験から、福島原発事故に伴う復興が順調に進まない一因として、復興事業で市民を指導するべき立場にある公務員、教員等が、放射線の健康影響についての知識を殆ど持たないため、市民に対する対応に統一性と信頼性が無く、市民の不安を惹起する誘因になっていることを指摘した。それを受けて、本事業では、(1)福島県内の地方自治体の担当者に「放射線の健康影響に関する講義」を提供し、原子力災害からの復興活動に必要な「放射線の環境及び健康影響」に関して、住民に説明できる程度の知識を教授することを提案した。その上で、(2)専門家グループと地方自治体職員のネットワークを構築し、住民から新たに発せられる疑問に専門家と自治体職員が協力して対応する体制を構築することを提案した。 5.平成25年度の活動概要 平成25年度は、前記の活動目的に沿って、福島県内の自治体に対して、放射線の健康影響に関する講座を開設する提案を続けたが、残念ながら、定期的な講座の開講に至っていない。しかし、市民に直接対応する公務員の放射線の健康影響に関する知識不足が、市民に対する説明の統一性と信頼性を損ない、復興業務に大きな障壁になっていることは間違いないことが判った。公務員相手の講座開設が難航する理由は(1)公務が忙しくて、公務時間以外に勉強する意欲が無い、(2)必要と判っても、上司が理解しないなどによって自治体全体の取り組みとならず実現が難しい、(3)既に充分知識を持っていると思い込んでいる、など様々な意見が寄せられている。私達の解析では、地方自治体にあっても縦割り行政が浸透し、関連部局での連絡は少なく、そのために各課で意識レベルが大きく違い統一した行動がとれないことが講座開設が容易でない最大の理由であると思われる。 こうした状況下にあって、我々のチームは、福島原発事故後も原子力災害対応組織を持たない南相馬市を標的として、市(市長)に各課横断的な原子力災害対策システムを作ることの重要性を提案した。それを受けて、渡邉および富田が南相馬市健康対策委員会委員に就任することとなり、現在、市役所横断的な復興対応組織の整備とそれに伴う知識向上活動の実施を継続提案している。 こうした活動とともに、平成25年度には、(1)放射線の健康影響に関するQ&A講演会、(2)一般人に対する放射線生物学講義(知の市場-放射線生物学)および、(3) 福島第一原発事故に伴う福島県および首都圏住民のリスクコミュニケーションに対する意識調査の三事業に焦点を絞り(http://rbnet.jp/fukushima.html)京都大学・放射線生物研究センターおよび日本放射線影響学会福島震災対応グループが連携して実施した。 (1) 放射線の健康影響に関するQ&A講演会は、事故発生直後から、京都大学放射線生物研究センター、社団法人国立大学協会、公益財団法人 ひと・健康・未来研究財団、独立行政法人、科学技術振興機構などの経済的支援を受けて、総計96回の放射線影響Q&A講演会を実施(予定を含む)したが、平成25年度には、そのうち第68回から第96回までの計28回実施した。当初の計画では、平成25年度は、公務員を主対象とすることとしていたが、一般人、教育委員会、市役所等からの単発的な依頼を中心に講演会を実施した。(参考資料1) これらの活動成果から、このプロジェクトの実施方針を探るために、平成25年度中に、プログラムに参加した担当者が一堂に会して、放射線の健康影響に関するQ&A講演活動内容検討会議(裏磐梯会議;平成25年7月および西白河会議;平成26年2月)を開き意見交換会を行うとともに、今後の活動方針を決定した(参考資料2)。 ⇒ここから参考資料1をダウンロードできます。 ⇒ここから参考資料2をダウンロードできます。 (2) 一般人および学童・生徒に対する教育プログラムについては、平成25年度は、京都大学放射線生物研究センターの教授連の協力を得て、一般人対象の講義提供プログラム【知の市場】に参加し、一般人に対する公開講座「放射線生物学」を平成25年12月6日〜平成26年2月14日の期間に開講した(参考資料3)。募集期間が短く、定員10名のところ、4名(30歳代〜70歳代)が受講しているが、いずれの受講者も勉学意欲が高いと講師全員が認め、平成26年3月6日に修了書を授与した。平成26年度は、前後期2回を開講予定で準備を進め、前期講義には、2月15日現在、すでに3名の受講登録がおこなわれている。加えて、福島県内および福島県外の中学校および高等学校生徒に対する放射線影響講演を実施した。 ⇒ここから参考資料3をダウンロードできます。 (3) 福島第一原発事故に伴う福島県および首都圏住民のリスクコミュニケーションに対する意識調査については、添付の調査表を用いて実施した(参考資料4および5)。 ⇒ここから参考資料4をダウンロードできます。 ⇒ここから参考資料5をダウンロードできます。 6.事業から得られた成果の解析 福島県を中心に実施した放射線の健康影響に関するQ&A講演会での経験を振り返ると、一見、平静を取り戻したように思える現地でも、一般人の放射線の健康影響に関する不安は、根強く残っており、暫くの間は、この種の勉強会が必須であることを強く感ずる。このQ&A講演会の開催形式は、数百名を一堂に会した講演会から30〜40名の小集団を対象にした膝詰め講演会まで試行錯誤で実施してきた。その経験から、講演後に引き続いておこなっている市民との意見交換から、自分の判断が自分の生命に大きく影響するような事象に対するコミュニケーションの場合は、大規模な講演会では、効果が少ないことが判った。その理由は、いままで、原子力や放射線に関して充分な知識がない国民は、専門内容を多く含んだ講演会を聞くことにより、かえって多くの疑問を抱くようになることが判った。そして、限られた質問時間では、生じた疑問の多くを解消できずかえって不安が増す傾向があることが判った。 そこで、我々は、現在、30名程度を基準とした少人数で質問時間を充分に確保する勉強会形式を導入している。さらに、いずれの講演会にも複数 の専門家を派遣することを基本とし、講演者の個人性によるコミュニケーションミスを出来る限り回避することに務めた。これらのことにより聴講者のほとんどに質問の機会が与えられ、良好なコミュニケーションがとれるようになり講演者および聴衆のいずれにも良い評価を得ることができている。勉強会が終了した後も、その地域の人々と密接に連絡を取り、ことあるごとに質問を受けているが、そのことが信頼関係を深め、リスクコミュニケーションの効果を上げているように感ずる。 7. リスクコミュニケーションに関する意識調査 この活動とともに実施したリスクコミュニケーションに関する意識調査の結果を解析すると「インターネット時代を反映して放射線の健康影響に関する情報が氾濫したことによって、かえって情報の真偽が判断できず、人々の間に不安が根強く蔓延している」ことを感ずる(参考資料5)。こうした現象は、事故現場からの距離に関係なく生じている。不安の原因は、様々あげられるが、(1)政府および地方自治体が発する情報に納得いく説明がほとんどないこと、(2)科学者の判断が一人一人全く違うこと、(3)そのために全てを信頼できないという一種の社会崩壊状況に陥っていること、などが引き金となっていると思われる。 そうした中で住民の心をもっとも掴む意_は、「放射線は危険」とする_場にたち、「政府、東電そして科学者を糾弾」する一部の方から発せられたものである。そして、そのような偏った考え方をする一部の人物の講演をきくことがきっかけとなり、多くの人が、福島ばかりか、首都圏、そして日本を離れる行動を起こしていると聞く。まさしく、世紀末を演出する思想集団のようで極めて残念である。市民が最も心配していることは、環境汚染に伴い農作物や海産物に汚染が広がり内部被ばくで健康が損なわれるのでは無いかということである。特に小児への影響を懸念する傾向が強く、多くの母子が家族と離れて、県外に自主避難をしている大きな理由となっている。こうした事態を引き起こす原因が一部の科学者による内部被ばくの危険性を煽るような情報提供活動、および、責任ある公的組織による正確な情報提供の不足の結果であることは間違いなく残念である。地道にこれらを論理的に理解するための情報提供が、極めて重要である。 また、驚いたことに、こうした極端な行動を選択する人々は、医師、教師、自治体職員といった、こうした事態が生じた時に、意思決定のリーダーとなるべき階層に属する人達であり、我が国の文化程度の低下を象徴していると危惧される。Q&A 対応委員会では、今月から、福島を離れて避難しているから方への情報提供を山形市、米沢市で実施した。 こうした現状に流されず、大多数の人々が納得して自分の判断をすることが、理性ある健全な社会を保つために必須であり、それを実現するために、正確な情報を地道に伝える活動が今後5〜10 年のスパンで必要である。そして、これまで異なる形式の講演会を実施してきた経験から、写真を貼付した福島県伊達市の例のように少人数の膝詰め討論会が放射線の健康影響について不安を持つ人々に納得のいく判断をして頂くための情報を提供できるもっとも適した方法であると実感する。 8. 復興に伴って必要とされる科学技術開発に対する要望と潜在能力の提案 また、同時に、復興に伴って、福島県で必要とされている科学技術開発に対する要望とそれらを実現する地元の潜在能力についてにQ&A講演会聴衆から意見聴取をおこなった。その結果、全く新しい技術の開発(ハードウエアーの開発)が必要であるという意見は、殆ど聞くことができなかった。しかし、既存の危機のうち、放射線測定器および放射能汚染汚染除染機器の簡便化に関する要望はかなり大きいことが判った。 その一方、今回の事故後、国民の原子力や放射線に対する基礎知識が決定的に不足していることから、それらに対する正確な情報を得るための、(1)充実した教育副読本の作成、(2)有効な教育支援機材など、ソフトウエアー的資材の開発に対する要望があげられた。特記すべきは、福島原発事故後の復興を着実に進めるための加速させるためには、壊滅的な状況にある公共交通手段の復興が最も重要であることが強く指摘された。JR常磐線の早期全面開通および高速道路常磐道の早期完成が復興を促進し、避難者の帰郷を促し、地域の復興の弾みになるという要望が多かった。 9. 実施者の事業の達成度に関する評価 当初、事業目的に掲げた公務員対象の講座の開設には成功していないが、全体的に、原発事故対応のリスクコミュニケーション促進のための業務は、予想以上に達成できたと判断する。
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June21, 2012, Ver.22, by Masami Watanabe, msm@rbnet.jp
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