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研究・教育活動

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1.教育
京都大学・放射線生物研究センターで大学院教育に参画しています。



2.研究プロジェクト
2.1研究目的
生命は地球上に誕生してから36億年以上の間、温度、圧力、放射線といった様々な環境要因から切り離されて 存在したことはなく、こうした外来環境要因からの働きかけ、すなわち“ストレス”に曝されながら細胞膜で 囲まれた極めて狭い空間に周囲 と異なる自立的環境を維持しています。従って、自律的環境を作り維持する営 み、すなわちストレス応答反応自体が“生きている”ことであり、 生命の基本的な活動といえます。最近、 生体は、様々なストレスに対して細胞が備える最も基本的な生物反応機構を巧妙に使って応答している ことが明らか にされてきました。これらのことは、生命が進化の過程で放射線と密接に係っていたことを予想 させます。このことは、さらに、ストレス応答機能に欠陥があると、癌などの様々な病気になりやすくなったり、老化 が促進されたりすること が予想されます。裏返せば、こうした欠陥を克服することによって、人を死に至らせる病気を治し たり、健やかに老いることができると思われます。
こうした考えに沿って、粒子線生物学研究室は、放射線、熱、圧力そして酸素の 4つの物理化学的要因をストレス原として選び、それらのストレスに対 するストレス応答の仕組みを細胞と分子の レベルで調べ明らかにすることによって、生命が避けられない癌と老化の本体を解き明かすとともに、 癌や老化を制御する技術の開発研究をおこなっています。
私達の研究成果は、「放射線発がんの標的がDNAではない」ことを支持し、「放射線発がんを多段階突然変異説」で説明できないことを強く示唆しています。  ⇒関連資料



2.2研究概要
2.2.1 ヒト細胞のがん化と老化の機構に関する研究
細胞がん化は、体細胞が無限増職能を獲得することであるのに反し、細胞老化は、 体細胞が増殖能を失うことであり表裏 一体の現象であると理解されている。 しかし、両者がどのように制御されているかは明確ではない。私達は、 放射線や酸素などの様々な環境ストレスによって損傷を受けた細胞内遺伝物質の変化が 細胞内 に遺伝的不安定状態を誘導することが、 細胞がん化と細胞老化の主要な起因となっていると予想している。 その観点で、 放射線による遺伝的不安定性 誘導の標的を 明らかにし細胞にがん化と老化の道を運命づける要因の解明を目指しています。
キーワード:細胞がん化、細胞老化、環境ストレス、遺伝的不安定性
 ○平成16〜20年度科研費-基盤(S)(課題番号:16101002)(文科省) ⇒終了報告書
 ○平成19〜20年度科研費-萌芽(課題番号:19651020)(文科省) ⇒終了報告書
 ○平成19〜21年度革新的実用原子力技術開発費補助金(経産省) ⇒終了報告書
 ○平成21〜23年度科研費-基盤(B)(課題番号:21310036)(文科省) ⇒成果報告書
 ○平成22〜26年原子力安全研究推進事業(内閣府) ⇒平成22年度成果報告会要旨集
2.2.2 放射線、酸素、温度および圧力に対する細胞応答機構の研究
生物は、様々な環境ストレスに曝されて存在しています。そうした 環境ストレスのなかで、 放射線、酸素、 温度および圧力は、 生物の発生や進化および発展と密接な関連を持ち、 生物は、 これらから 離れて存在することはできません。最近、これらのストレスに対して生物は、 その生命維持に使っている基本的な生物反応のしくみ を巧みに使って応答して いることが明らかにされてきています。 私達は、これらの環境ストレス に対するストレス応答機構を明らかにすることによって、 生命の基本的しくみを明らかにしたいと思って います。 こうした環境ストレスへの応答機構 の不調が様々な疾病を誘導する原因であると思われることから、ストレス応答機能の欠損を補うことで 疾病の発生を予防する技術の 開発を視野に入れた 研究をおこなっています。
キーワード:環境ストレス、放射線、酸素、 温度および圧力、ストレス応答機構、疾病予防技術
 ○平成19〜20年度科研費-萌芽(課題番号:19651020)(文科省) ⇒終了報告書へ
 ○平成21〜23年度科研費-基盤B(課題番号:21310036)(文科省) ⇒成果報告書へ
2.2.3. 低線量放射線の生物影響に関する研究
最近、細胞は自然環境レベルの低線量放射線に積極的に応答していることが明らかにされています。 しかし、 その応答機構は明確にされていません。 私達は、これまでに、10cGy程度の線量を境に、それより高線量の放射線と低線量の放射線 に対する細胞の応答が 分子反応レベルで明確に 異なっていることを報告してきました。この結果は、” 細胞が放射線被ばく線量を認識”し ている可能性を示唆しています。 そして、 低線量域にある線量の放射線 によって誘導される影響は、実験的に放射線で誘導した遺伝的不安定性によって生ずる 遅延型影響と極めて 類似した 現象であるとする結果が得られています。 それらの結果に基づき、私達は、低線量放射線に対する細胞応答機構は遺伝的不安定性 発現機構と密接に関係する ものであると予想し、細胞死、 染色体異常、突然変異および細胞がん化を指標にして低線量放射線の 生体影響の 機構の解明を目指して います。この研究は、 科学研究補助金・萌芽研究(平成17年度〜 平成18年度)および平成19〜21年度革新的実用原子力 技術開発費補助金(経済産業省)で支援されています。
キーワード:低線量放射線、10cGy 細胞が線量を認識、遅延型影響、遺伝的不安定性
 ○京都大学原子炉実験所共同研究 (プロジェクト研究)(課題番号:21P-3) ⇒終了報告書へ
 ○平成19〜21年度革新的実用原子力技術開発費補助金(経産省) ⇒終了報告書へ
 ○平成22〜26年原子力安全研究推進事業(内閣府) ⇒平成22年度成果報告会要旨集へ
 ○電力中央研究所共同研究 ⇒終了報告書へ
2.2.4 放射線誘発長寿命ラジカルの生物効果の研究
私達は、放射線照射された細胞内に常温で20時間を超える半減期を持つ 長寿命ラジカルが生ずることを世界で 初めて発見しました。 そして、得られた研究成果を総合的に判断すると(1)放射線を 被ばくした細胞内には、半減期が200ns以下の 極めて反応性の高い短寿命ラジカルは、遺伝物質(DNA)を直接攻撃し細胞死や染色体異常を起こすが突然 変異や細胞 がん化の原因にはならない。(2)しかし、長寿命ラジカルは、 細胞死や染色体異常を起こさないが 突然変異や細胞がん化を引き起こす主因 というこれまでの放射線生物学の常識と反する結論が導かれました。 この結論から、私達は、 細胞がん化が” DNA損傷→染色体異常→突然変異→発がん”という経路を辿って生ずるとする”発がんの突然変異説” に疑問を投げ掛 けています。これまでに、長寿命ラジカルは、細胞内タンパク質に生じているシステイン・ラジカルで あることを明らかにしましたが、依然としてシステイン・ラジカルがどのような機構で突然変異および 細胞がん化を誘導するかをあきらかにしていません。 しかし、この長寿命ラジカルは、 ビタミンCやエピガロカテキンなどの植物由来のラジカル捕捉剤で効率良く捕捉され、突然変異や発がん頻度を軽減させることが 判りました。そこで、現在、私達は、長寿命ラジカルの本体とその生物作用の仕組みを明らかにし、この長寿命ラジカルに起因する発がん を抑制する技術の開発を目指しています。 この研究は、科学研究補助金・基盤S研究(平成16年度〜 平成20年度)で支援されました。
キーワード:短寿命ラジカル(R・)、長寿命ラジカル(LLR・)、システイン・ラジカル、10cGy、 突然変異、 細胞がん化
 ○平成16〜20年度科研費-基盤(S)(課題番号:16101002)(文科省) ⇒終了報告書へ
2.2.5 温熱に対する細胞応答とその癌治療への応用に関する研究
がん組織は、正常組織にくらべて熱感受性が高いことが経験的に知られています。 そして、このことが温熱がん治療の 基礎 となっています。 しかし、細胞が温熱によって致死に至る機構は、依然明らかにされていませんでした。 最近、私達は、 43oCの温熱処理 された細胞に生ずる温熱応答反応を詳細に調べることによって、温熱処理に よって細胞が死亡する経路には、大きく別けて (1)細胞質の巨大化と老化関連 βガラクトシダーゼ陽性化で特徴づけられる 老化様増殖停止と(2)多極分裂異常に起因する二経路があることを明らかにしました。 さらに、多極分裂異常の 温熱標的は中心体およびそれを取り囲む高次構造体であり、正常細胞では、温熱処理で中心体の変性が誘導されても 変性の 修復が効率よく行われるのに反し、癌細胞では、中心体が変性したまま細胞周期が進行するため分裂期を迎えて分裂異常を 起こすことを見つけました。
これらの成果を踏まえ、私達は、温熱による細胞死の機構の全容を明らかにするとともにがん細胞が正常細胞に くらべ熱で死にやすい理由を追跡し、 安全で 効果的な温熱癌治療法(ハイパーサーミア療法)を開発することを目的 として研究を行っています。
キーワード:多極分裂異常、老化様増殖停止、温熱標的は中心体、分裂異常、温熱癌治療法(ハイパーサーミア療法)
2.2.6 海洋微生物の未開発機能の探索と応用に関する研究
海洋は、多種多様の生命体を生み出すとともに、その安定した環境によって多彩な 生命体を育んできました。しかし、 今日、我々はこの多様な 海洋生物資源のうちの主として捕獲による大型生物の一部を利用しているに過ぎず、多くが未利用のまま残されています。特に、 海洋微生物 は、 地球上の生物エネルギー循環 サイクルのなかで有用成分の産生と分解の大半を 担っていると考えられていますが、その実体は余り知ら れていません。 そのため、人類は、その多彩な生理活性を十分に利用しているとはいえず、この現状からも 海洋微生物の生理機能の研究は魅力ある 分野と考えられ ます。 一方、21世紀までの人類の文明の発展は、多くのエネルギーとともに地球に蓄えられた資源を消費することが駆動力となって達成 されました。 そのため、 地球上の 化石燃料の枯渇とともに大規模な環境汚染と環境破壊を招いていることが指摘されています。この意味で、エネルギー 消費の抑制 と環境保全問題は、 21世紀に人類 が早々に解決せねばならない重要な課題となっています。こうした背景を踏まえて、我々は、地球上の物質 生産と 物質分解サイクルの基盤を担っ ていると思われる海洋微生物群が、今後、魅力的な生物リソースになると考え、1997年より長崎県沿岸海域の泥、 魚、海水などから海洋微生物を採取して 海洋微生物ライブラリー の構築をおこなってきました。 そして、これまでに2万株を超える海洋微生物の 一次 ライブラリーを構築し、そのライブラリを材料として環境保全に必要な技術開発と 自然のエネルギー循環サイクルに組み込まれた医薬品および 食品素材 の生産技術の開発が可能であるか否かを検討しています。
この海洋微生物ライブラリーから有用機能を探索してみたいと思われる方は、企業研究者を含めどなたでも気軽に問い合わせてください。 サンプルを提供します。

キーワード:海洋微生物、生物エネルギー循環 サイクル、生物リソース、一次ライブラリー

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May 1, 2012, Ver.23, by Masami Watanabe, msm@r.jp
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